建設産業の再生と発展のための方策2011

-建設産業のために-

ニュース8月号 主張
建設業の再生方策を検討してきた国土交通省の有識者会議「建設産業戦略会議」(委員長・大森文彦東洋大教授)は去る六月二十三日に報告書「建設産業の再生と発展のための方策2011」をとりまとめ、大畠国交相に提出した。
そもそも建設産業戦略会議は、昨年十二月に設置され、当時の馬渕国交相が「疲弊の激しい地域建設業がなくなれば災害対応の空白地域が生まれる」と懸念を表明。地域建設業の維持を柱とした建設産業の本格的な再生方策を今年三月に二〇一一年度実施策としてとりまとめ公表する予定だった。
しかしながら、三月十一日に発生した東日本大震災への復旧対応で公表が延期されたが、地域建設業の役割の重要性は、被災地の応急復旧に不休不眠で奔走した地域建設業者によって証明される形となった。
なお、今回の方策2011とりまとめにあたり、戦略会議においてたたき台として今年一月に公表した当面の基本方針や二月に業界ヒアリングとして実施された全管連の提案意見については、既に全管連ニュース三月号で紹介し、その経緯や概要等は後記に掲載の通りであるので参照願いたい。
さて、戦略会議は建設産業の現状を次のように分析している。建設投資はピークだった一九九二年の八十四兆円から二〇一〇年には四十・七兆円へと半減する一方、建設許可業者数はピークだった九十九年度の六十万業者から十年度には四十九・九万業者と十七%減にとどまる。この需給バランスの崩れ、「過剰供給構造」が過当競争を引き起こし、ダンピング受注の横行は経営体力の弱い中小の地域建設業者を苦しめ、受注のためにコストを抑制しようとするあまり、本来は負担すべき建設労働者の社会保険料などを削る企業が増加。さらに労働環境の悪化が若手の入職を妨げ、技術者の減少で工事の品質や安全管理にも問題が出ているなど、現況は「負のスパイラル」そのものと指摘した。
また、建設投資額や企業の売上高の分析では、一九九二年度をピークに二〇〇九年度はその額が半減したが、粗利益率はこの間、一六~一八%程度でほぼ一定である。労働者数は一九九七年度のピークから二〇〇九年度までに二十五%減少したが、建設投資額や売上高に比べて減少の度合いが緩やかであり、技能労働者ひとり当たりの原価は減っており、下請労働者などにしわ寄せがいっていると判断した。
さらに現場の技術者をめぐっては、高齢化の進行と若年者不足という問題が表面化している。現場の中核的な技術者として工事の品質管理を担う「監理技術者」の資格保有者は全国に二〇一〇年十月時点で約六十七万人いるが、うち五十二・五%と半数以上が五十歳上の技術者が占めている。五十歳以上の割合は一九九九年三月末時点では三十九・七%であり、この十年余りで急増したと報告された。ちなみに、昨年全管連が実施した一級管工事施工管理技士の五十歳以上の資格保有率も全体の四七・三%という結果が出ている。
このような結果を踏まえ、今回の報告書では、建設業疲弊の根幹である過剰供給構造の是正をはじめ、災害対応などの役割を担う地域建設業の維持、人材の確保などさまざまな対策が示されている。具体的には、インフラ維持管理など地域維持事業を担えるようにする地域維持型JV制度の創設、保険未加入企業の排除に向けた保険加入目標の設定、監理・主任技術者の資質向上や適正配置の徹底につながる技術者データーベースの整備、入札参加者の二段階選抜方式の導入などが提示されており、今後、中央建設業審議会での審議などを経て、政省令や法律の改正が行われ、これからの建設業の再生に向けた改革が動き出すこととなる。

建設産業の再生と発展のための方策2011 国土交通省

国土交通省の「建設産業戦略会議」は、六月二十三日、「建設産業の再生と発展のための方策2011」をまとめ、大畠国土交通大臣に提出した。詳細は同省ホームページを参照して下さい。
http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo13_hh_000123.html
建設産業戦略会議においては、昨年十二月以降十二回にわたり討議が重ねられており、全管連も建設産業専門団体連合会の会員団体としてヒアリングに参加して、地域建設企業が担う事業の安定的な確保や社会保険に未加入の企業に対する取組等について強く主張してきた。そして、今般「建設産業の再生と発展のための方策2011」としてとりまとめられ、地域維持契約方式の導入、保険未加入企業の排除、技能者データベースの整備と業務区分の点検、入札契約制度改革、海外市場への進出などの具体策を打ち出した。
地域維持型契約方式の導入は、災害対応など地域維持型事業に係る担い手の確保が困難になるおそれがあるため、一括契約や複数年契約などの包括発注や地域建設企業の共同体による契約を推進する。
保険未加入企業の排除は、行政と元請・下請企業がそれぞれ保険加入の取組を強化するよう求めた。具体的には、行政が社会保険担当部局との連携による加入徹底を行い、許可更新時の加入状況確認や公共工事参加者の加入状況確認を行う。また、元請け企業は施工体制台帳や建設現場の作業名簿等を活用し、下請けや建設現場の各労働者の保険加入状況をチェック、指導する。
技術者データベースの整備と業種区分の点検については、施工体制台帳に基づく一括下請の確認強化、主任技術者の配置徹底、請負・派遣の判断基準の周知徹底などを通じて請負と雇用関係の適正化に取り組む。
建設技能者の確保と育成については、専門工事業団体で入職後の経験年数に応じた職位、年収などを記載したキャリアパスを作成・提示する。入札契約制度の改革では、地方公共団体におけるダンピング対策の強化や落札決定の効率化(段階選抜方式)、地域企業の適切な活用などを促進する。
海外市場への進出については、安定的に海外展開できるよう支援するため、契約・リスク管理の強化、情報収集・提供、人材育成などを強化する。
過剰供給構造の是正では、不良不適格業者を排除していく。具体的には、欠格要件の審査を簡易迅速に行えるようにする。
東日本大震災への対応は、復旧・復興工事を円滑かつ迅速に、また、地域企業と地域外企業の適切な活用を行い、事業の早期着手のための随意契約や指名競争入札を活用していき、迅速かつ弾力的な対応を行っていく。